モブだけど推しが生きてるから毎日が楽しい
『モブだけど推しが生きてるから毎日が楽しい』(2020年)
作者:KAI
イラスト:炎 かりよ
一迅社 (メリッサ)
こちらもゼロサムコミックス版で気になり、BOOK☆WALKERの評価がやたら良いので原作を購入しました。
あらすじは
主人公はある日、前世の自分が大好きだった乙女ゲーム、『君だけの青春を』略して君春(キミハル)のモブキャラに転生していることに気がつく。
ゲームのイベント通りに屋上に向かうと、前世の最推しキャラ、黒鉄虎雅(くろがねたいが)に遭遇することができたが、初対面にも関わらず思わず告白してしまう。
ゲームのプレイヤーキャラであるヒロインの存在にやきもきしたりしつつ、距離を縮める2人だったが…。
本作の特徴は
ではないでしょうか。
いわゆる中世ヨーロッパ風の貴族社会や魔法や魔物が存在する世界ではなく、現代の高校生設定で三角関係イベントなどが発生することから、ときメモGSやSTORMLOVERみたいなゲームかなと思いました。例えが古いですね。
ゲームとしては珍しくないですが、女性向けの転生モノ小説としては少し珍しいですね。
乙女ゲー世界に転生するお話では、元のゲームでの攻略対象の中でも王道(パッケージのイラストの中央にいるとか、クレジットで最初に名前が来るとか)のようなキャラクターか、元は攻略対象ではないキャラクターと主人公がくっつくことが多い気がするのですが、
本作では見るからに喧嘩が強そうな不良キャラが相手役なのが新鮮で良かったです。漫画版で気になると思った1番のポイントがこれでした。
主人公は初対面から告白するくらい、ハイテンションにいかに虎雅が好きかと始終語りまくりますし、地の文もオタクのそれなので、このテンションが苦手な人は無理でしょう。
個人的には痛々しいとまではいかず、かわいいなと思えるギリギリを攻めてるなという感じました。
(ここからはネタバレを少し含みます)
相手キャラの虎雅は主人公にとって「最推し」だったので、冒頭から好感度MAXの状態で始まります。
メインヒロインの存在に悩んだりもしますが、基本的にタイトル通り、主人公は「推しが生きてるから(それだけで)楽しい」というスタンスのままです。
これが後に虎雅にとって大きな意味を持ちます。
「なろう系」の典型的な状況説明タイトルですが、ちゃんと回収されるのは良いですね。
登場人物が少なく、場面も学校、虎雅の部屋、夏休みのイベントが発生する場所…くらいなので、話がとっ散らかず、丁寧に2人の様子が描かれます。
ほぼ名前しか出てこない他の攻略キャラ達や、彼らと『関係のある』キャラクター達の話も読んでみたいなと思える塩梅でした。
この作品の世界観なら最後のシーンは無くてもよい気がするのですが、レーベル的にはお約束なんでしょうか。
乙女ゲーの世界に転生する設定だと
- ゲームのエンディング後も世界は続いていく(いわゆる悪役令嬢モノだと、断罪イベントを回避する、婚約を上手いこと破棄する、など明確な目標があり、当面はそこに集中するためあまり重要ではない)
- 今までは好きな作品と言えど、あくまでも創作物の中のキャラクターに過ぎなかったが、転生後の世界では1人の意志を持った人間なのでそこのギャップ
- 相手からの好意もゲームの設定によるものなのか(私のことが好きなのはゲームのシナリオでそう決まっているからなのか、本当の感情なのか)
辺りで悩むのが王道だと思うのですが、この作品は主人公がモブである設定や性格を使って避けたり、軽く触れる程度だったりして新鮮でした。
しかし主人公が全く悩まないわけでもなく、読んでいて楽しかったです。
読んでよかったですが、満点評価(2021年8月現在)は高すぎかなと感じました。
女遊びの激しかったキャラが身辺整理をする描写にグッとくる人って一定数いるんだろうな~
王子様に溺愛されて困ってます ~転生ヒロイン、乙女ゲーム奮闘記~
『王子様にできあいされて困ってます~転生ヒロイン、乙女ゲーム奮闘記~』(2018年)
作者:月神 サキ
イラスト:アオイ冬子
一迅社(メリッサ)
ゼロサムオンラインで読んだコミックス版が気になって原作1巻を読みました。
あらすじは
侯爵令嬢シルヴィアはある日転生前の記憶を思い出し、生前プレイしていた18禁乙女ゲームのヒロインに転生していたことに気付く。
絶倫王子アーサールートを回避し、最も無難な騎士ルートに入るべく奮闘するが…。
現在3巻まで出ており、コミックス版も続いています。
基本的にはヒロインがあの手この手で絶倫王子ルートを回避しようとするドタバタコメディ。
ドジなところもあり、生前は好きだった王子キャラのビジュアルや声にうっかりときめいてしまったりもしますが、意思があって、相手を気遣うこともできるし、ストレスの無いヒロインです。
当然のように王子ルートに進んでしまうのですが、後半では王子からの好意は、自分がゲームのヒロインだから、ゲームのストーリーで王子がヒロインを好きになることが決まっているからなのではと悩むところあたりから「ゲームの世界に転生する」設定のおもしろさが活きてきました。
乙女ゲームであるので攻略対象のキャラは複数いて、それぞれのフラグが立っていきますが、ちゃんと王子にフォーカスが当たっていて、とっちらかっていないのが好印象でした。
コメディタッチではあるものの、ヤンデレの義弟の様子は怖くて続きが気になりました。
魔法が存在する世界で、ヒロインも魔法を使う場面がありますが、説明も少なく、わりとふわっとした描写で終わります。
そんなところも18禁シーン中心の頭の悪い乙女ゲー世界なんだなという感じです。
実際には18禁乙女ゲームはBLゲームや一般の乙女ゲームに比べるとかなりニッチな存在であり、何作も続くシリーズで、生前の主人公は同人活動もしていたというと、なかなか珍しいと思いました。
そんなところも含めて「お約束」なのでしょう。
文章も読みやすく、義弟の行方を含め続きが気になるので読んでみようと思います。
あとがきでキャラの対談が始まった時は懐かしすぎて気が遠くなりました…。